i love you.
2020.05.09.
郵便局に行きたいから、と言って歩き出した後輩の隣に並ぶ。
「え。来るんですか?」
「暇なんだよ」
「愛人は?」
「お前今何時だと思ってんだ」
ステフもシャーローンも仕事だろ、と言うとレオは顔を顰めて溜息を吐いた。その態度に疑問が湧く。
「なんだその溜息は」
「…いいえ。昼間愛人を働かせておいて自分は暇だとのうのうと宣える神経が俺にはあたたたたた痛い痛い痛い」
「いーかお前。あのな俺が働かせてるわけじゃねーの。みんな俺が好きだから働いて俺に飯を作ったり寝たりしてんだよ。分かるかこの違い」
「ザップさんがクズだってことしか分から……あたたたたたごめんなさいごめんなさい痛い痛いやめやめやめお助けお助け」
喚きながら歩いた先に郵便局があった。こんなのこの街にあったのかよと呆れたザップに、横にいた後輩はもっと呆れた顔をしてあるに決まってるでしょう、と言いながらカウンターへと歩いて行った。
当たり前かどうかはわかんねーだろ、とザップは言い返そうと思ったが、不毛だと分かってもいたので結局やめた。
「……………。」
郵便局とか銀行とか、それから役場とか、そういうところにザップはとんと縁が無い。確かに愛人の中にはそういう職業の子もいたような気もするが、かと言って職場までわざわざ行ったことは過去一回もなかった。大抵知り合うのはバーだし、口説き落とす場所もバーなのだ。そもそもこういう”ちゃんとしている”場所はこの街の中でも異質に見えた。
「ただいまー」
そう言ってのこのこと後輩がカウンターからザップがいた壁際に戻ってきた。何がただいまなんだ、とザップは思いつつ、何買ったんだ、と首を傾げる。郵便局で買いたいものと言われても、ザップには全く思いつかなかった。
「切手ですよ。手紙出すから」
「……切手」
復唱する程度には馴染みがない。そう思ったのがすぐにレオには伝わったらしい。苦笑した後輩は「ザップさんもたまには誰かに書いたほうがいいですよ」と言って出口に向かって歩き出した。
「誰にだよ。出す相手もいねーっつうに」
「あ〜〜〜……そうですね……あ、お師匠さんは」
「十年単位で行方不明になるような相手に手紙出せる局員がいたらウチでスカウトするだろーが」
呆れてそう言い返したザップに、レオは思っていた以上にウケたらしい。口を押さえて笑い出したので、ザップは無言で前を向いた。変なところで沸点が低い。どこにウケたんだ。そう思った。
「……あ、そ、それじゃあ」
俺とか、と言われた意味を理解するのにそんなに時間は要らなかったが、勿論それもそうだな、と納得する時間は見つからなかった。
「お前にだあ?毎日会ってるだろ。何をどう手紙で言うんだよ」
「よく言うでしょう。手紙って直で言えないことを言いやすいんですよ」
言ってないだろ、というザップのツッコミに、言ってないですけどね、とレオは律儀にそう言った。書いているのだから言っていない。
「だからザップさんもあるんじゃないですか。俺に対して本当は申し訳ないとか、いつもありがとうとか思っていることが多々あるけど今更言えないと」
「は?逆だろ?お前が俺に対して毎日そう思ってるっつーんなら分かるけどよ」
そう言ったザップに、レオは今度は笑わなかった。眉間に皺を寄せている。「……それマジで言ってるんだからやべーんすよあんたは」どういう意味だ、と思ってレオの後頭部を軽く殴ったので、あて、と小さく声が上がった。
ひでーよと喚いているレオを放置して、だいたい、とザップは顔を顰めつつポケットに手を入れた。
「お前に言いにくいことも隠してえこともぜんっぜんねえよ。言いたいことあったら即言うわ」
手紙なんかまだるっこしいことしてやんねえって、と言ったのは別に何か他に意図があったわけではない。本当にそう思って言った。本音だ。
なのにレオからは返事がない。「?」不思議に思って横を向く。レオは呆気に取られた顔でこっちを見ていた。いまだに後頭部を手で押さえている体勢で固まっていた。
「?なんだよ」
「…………いや〜〜〜〜……」
それマジで言ってるからやべーんすよねザップさんは、とさっきと全く同じことを言われたけれど、なぜかレオが嬉しそうにそう言ったので、今回は殴らなかった。
end.