calling
2020/05/09
時刻は深夜二時半だった。もう俺寝てたのに、という文句を先輩はいつも聞き入れない。
よう、と言いながらこちらに手をぶんぶん振っているザップは満面の笑みを浮かべていた。
「………ったくもー!」
いい加減にしてくださいよ、と言いながらバイクを横付けすると、何がいい加減なんだよと心底不思議そうにザップは言って、レオの後ろに跨った。
「これですよこれ。深夜に俺を呼び出す系」
「系ってお前」
何だよその言い方、とザップはおかしそうに笑って、ばしばしとレオの背中を叩いてきたから堪らない。いてえよ、とレオは顔を顰めてヘルメットをぽいと後ろに投げるように渡した。声といい表情といい、紛うことなく酔っている人間のそれだ。
「次やったら今度こそスティーブンさんに相談しますからね。パワハラですよこれは」
「はあ〜〜〜?お前何言っちゃってんの?文句言いつつおめーだって毎度毎度俺のこと迎えに来てんじゃねーか」
バカなの?と言わんばかりに再度背中を叩かれたので、流石にレオの額にも青筋が浮かんだ。
「…いや。いやいやいやそれはあんたが来ないと殺すとか斬るとか先輩命令だとか言ってきて、実際一回行かなかったら翌日俺のことを吊るしたからでしょーが」
つまり断ったり無視したりする方が面倒なことになるとレオは学んだのである。だから渋々こうやってですね、と言ったレオのそれに被さるようにしてザップは笑った。
「そーかそーか。そんっっなに俺が好きだとそーいうことか。ならしゃーねえなわーったわーった」
「はい?いやちょっと待って下さいよ俺一言もそんなこと言ってないですよね。今何聞いてんです」
「いーから出せよほら。帰ってクエストやろーぜしょーもなき民よ」
「………………。」
この調子じゃ帰ったらすぐ寝るだろうに、とレオは思ったが口にしなかった。
「…はぁい。んじゃ発進するんで落ちないで下さいよ」
落ちても停まりませんからね、というレオのそれに、ザップはまた爆笑で返事してきた。いつもこれだ、とレオは溜息を吐きたくなった。
そんなことがそれから数回続いた。いい加減にしろよとかふざけんなよとかレオも思っている割に一回もそれを無視していないのだから、人に訴えたところでお前も悪いと言われそうな気がする、とレオは思いつつスマートフォンを見つめる。「……………。」時刻は深夜三時だった。
黙って指を画面に触れると、するすると目的の画面まで辿り着く。
「……………。」
無言でボタンを押し、それから電話を耳に当てた。
『っレオ!!』
「わっ」
びっくりした。数コールも経たずに、どころかコール音がする前に相手が出たからだ。
「……へへー。どもっす」
『呑気か!!どこにいんだてめーは!!』
激怒している先輩に、レオはええと、と言いながら顔を上げた。
「……ウェストミリガン通りの……、…え〜〜っと…橋が…」
そう言った後欠伸をしたので、一瞬会話が途切れる。おいコラてめえ、という怒りの声が携帯の向こうからは聞こえてきた。
『すぐ行くからぜってー動くなよ!ぜってーだ!!あと絡まれたら義眼使えよバカ!!』
その怒鳴り声のあと通話は切れた。「…………。」無言で携帯電話を見つめるレオの眼には、先輩の名前が映っている。「…………使わねーし」そう言ってずるずると橋のたもとにしゃがみ込んだ。
「…………使わねえよ……」
そう言って顔を膝にうずめる。泣きたかったけど泣かなかった。ただその時一つだけ思ったのは、自分が呼ばなくても、怒らなくても、泣かなくても、絶対にザップはレオのところに来てくれるということ、それだけだった。
end.