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2017/12/02→2022/11/28

テーブルの上に書類を広げる。ばさばさという紙が擦れる音にソニックが首を傾げた。「しゃーないだろ。場所がないんだから」そう言い訳染みたことを言ったせいか、ソニックは益々不思議そうな顔をしてジャンプする。わっとレオが声を上げる前に、いつものとおり友人はレオの頭の上に綺麗に着地した。
「何してんの?」
不思議そうな顔で首を傾げたのは、ソニックだけではないらしい。丁度正面にあたる場所に、チェインが突然現れたのでレオは声を上げそうになった。「……、……びっ、……あ〜、…いえ、不動産屋行ってきたんで…」気になるとこ見てるんです、と言いながらぺらぺらの紙を手にしたレオを見て、ああ、とチェインは納得した顔になった。
人の首って結構重いんだよね。
とはいえ人の首を運んだのは勿論初めてではあったのだが、そう思ったのは一昨日のことになる。アメリカ合衆国特使の首を公会堂まで運ぶ羽目になってしまったレオの身に、非常に嘆かわしい出来事が起きた。運ぶ過程で家は破壊され、ついでに言えば全休で一日かけて遊ぶ予定だったゲームハードとゲーム機も破壊された。以前も似たようなことがあったが、その時は飽くまでもレオの同意ありきで家を追い出されただけに過ぎない。あくまでもというところが複雑なところではあったけれど、ともかくとして今回と前回はまた話が別だ。
それはいいとして、とレオは溜息を吐きながらソファに寄りかかった。本当はよくない。「ずっとここにいるわけにいきませんし。さっさと住むところ見つけないと…」そう言って書類を見つめたレオの上からソニックは跳び上がり、チェインの方に移動した。
「うーん。ごめんねソニック。私今フリスクしか持ってないよ」
「チェインさん。いーっすよそいつ甘やかさないで」
顔を顰めてそう言ったレオをソニックがキュッと顔を顰めて睨んできたが、レオは書類の方に眼を戻した。「荒れてるなあ」その声と一緒に苦笑が聞こえたので、レオも、それからチェインも自然に顔を上げる。ソニックはフリスクを口に入れたせいか、変な顔をしていた。想像していた味とは違ったらしい。
「どーだ少年。進捗は」
「はかばかしくないです」
そう言ってまた溜息を吐いたレオの横に座ったスティーブンは、そうかそうか、と苦笑した。「そりゃー一両日中には難しいよなあ。…あれ?そういえばツェッドは」今日は休みだろう、と言って辺りを見渡したスティーブンに、チェインが答えた。「私もちょっと用事があって…自室をノックしたんですけど、返事がなくて」部屋にいないのかも、とチェインは独り言染みたそれを言って首を傾げた。
「そーなのか?…大体こーいう時、あいつは少年を手伝っているものかと思っていたが」
「ああ、ツェッドさん…ツェッドさんは今たぶん寝てます。爆睡してます」
「は?」
寝てるの?とチェインが言って彼の部屋の方に眼を向ける。「寝てますよ。ツェッドさん寝たの朝5時だから」別の書類を見つめたまま、何でもないように返事をしたレオに、ごじ?とスティーブンもチェインも同時に言った。ユニゾン、とふざけたことを思ってしまったのは、たぶんレオが疲れていたからだろう。
「俺は夕方からバイトだから昼二時くらいには起きたんですけど…たぶんツェッドさん朝型なんですよ。だから死んだように眠ってます」
「待て少年。全然状況が読めないぞ。なんで君が昼に起きたりすることとツェッドが今も寝ていることが関係あるんだ?」
もう夜八時だぞ、と腕時計を見ながらスティーブンにそう言われてはあ、とレオは頬を人差し指で掻いた。何を不思議がられているのか今いち分かっていないという表情に、チェインが変な顔をした。不審がっている。
「えーっと……、…昨日俺ツェッドさんとUNOやって遊んでて…」
「UNO」
懐かしいね、とチェインが笑って言った。どうやら人狼も馴染み深いゲームらしい、とレオは思ってちょっと笑顔になった。「スティーブンさんがくれたんですよ。俺のX……、……ステーション……、……」「あーあーあーあー」ごめんごめん、と言ってチェインは手をこちらに押し留めるようにして、翳してきた。「傷を抉るつもりはないから。話を先に進めて」そう言われてレオは粉々に破壊されたであろう自分のゲーム機の幻想から戻ってきた。ハードダイブ4と一緒に天国で幸せになっているだろうか、とぼーっと考えていたものの、ええとそれで、と話を元に戻す。ちなみにスティーブンは神妙な顔でレオの話を隣で聞いていた。
「……あ、そうそう…それでUNOっすね。それをツェッドさんと昨夜から遊んでたんですよ。そしたらなんか朝になっちゃって」
いやー盛り上がったなあ、と言いながら頭を掻いて笑ったレオを見て、スティーブンとチェインが無言になる。「……二人で?」「UNOを朝まで?」そう引き攣った顔をしながら言ったスティーブンとチェインを見ながら、レオは不思議そうな顔になった。
「?はあ。そっすけど。だってUNOって……」
遊ぶものじゃないですか、とにこやかに笑った瞬間スティーブンがレオの肩を掴んだ。「わっ!?」「…チェイン。コーヒーでも入れてやってくれ。すまないが」「いえ。わかりました」そう言って厨房の方に歩いていく人狼の後姿を見て、レオは首を傾げる。なんだろう、と思っている間にも、スティーブンに少年、と名前を呼ばれて顔を上げた。
「はい」
「……君は疲れている。もう今日は寝なさい」
「え?…だって折角不動産屋に行って…書類貰ってきたのに…」
人の入れ替わりが激しいから結構物件が変更になるんですね、と言いながら紙束を抱えたレオを見ながら、いーからとスティーブンは悲痛そうな声で言った。「寝なさい。シャワーをさっさと浴びて…ああ飯は食ったのか?」「いえ、今日はもういいかなって」「いーかなって…」おいおい、と言いながらスティーブンは不憫そうな顔で自分の眼を押さえてしまった。「?どうしたんですかスティーブンさん」元気ないですねえ、と聞こえようによっちゃ呑気そうな声で、レオはそう言ってなぜか笑ってしまった。「………。」コーヒーはまだかな、という顔でなぜかスティーブンはそこでレオから目を逸らした。見ていられないという顔をしていたのだが、その時のレオはそれに気が付かなかった。
丁度その時だった。正面のドアがばたんと大きな音を立てて開いたので、レオもスティーブンも顔を上げる。
「うーすいるか陰毛頭ー。この大先輩が飯を……、……………、………え?」
機嫌がよさそうに部屋に入ってきたザップは、手を挙げたままの体勢で固まってしまった。「あ。ザップさん」どーも、と言いながら同じように手を挙げたレオとは違って、あちゃあという顔でスティーブンはレオから離れた。それが余りよくなかったらしい。ザップが固まっていたのは数秒にも満たなかった。高速移動もかくやという速度でこちらにやってきたザップを見て、ソニックは驚いた様子で跳び上がり、今度はスティーブンの頭上に着地した。うわ、という驚いた声が上がったので、レオは慌ててこら、と言いながら手を伸ばす。
「ソニックだめだよこっち来い。スティーブンさんが重いだろ」
「……スターフェイズさん何してんですか…?…いや今何しようとしてました……?」
「………………チェインー…コーヒー…」
ぐちゃぐちゃの会話が交わされた―――いや交わされていない後、変な間が起きた。「………。」「…………。」「…………。」そしてすぐに同時に三人が喋り出したので、ソニックは煩そうな顔で目を瞑る。そこで丁度コーヒーカップをお盆に置いて、チェインが厨房の方から戻ってきた。
「お待……、……あれ?」
ゴミが増えてるんだけど、といったチェインをじろりとザップが睨み付けた。「どーいう…ってか何でてめーもここにいんだ暇じっ、」ん、とザップが言う前にチェインの足が思い切り彼の顔にぶつかっていたので、ぐふ、という呻き声が部屋に響く。立ち上がったスティーブンが器用にも斜めになった盆をコーヒーカップごと受け止めたので、被害は特に出なかった。
ちなににその間レオは、つかまえたソニックを肩に乗せながら、不動産屋で貰った新居候補の書類を復習っていた。


寝ぼけてる、と先輩が言った声が遠くで聞こえる。「違う。疲れてるんだ」「似たようなもんでしょ」「全然違うよ」バカじゃないの、という顔をチェインがしたせいなのか、うるせーとザップは顔を顰めて彼女に返事をした。流れるようなそのケンカ染みたやり取りに、いつもならちょっとだけ仲裁に入るレオだったが、今日は全く入る気がない。というかそんなこと思いつきもしていなかった。コーヒーを飲みながらぼーっと正面を向いている。
「………あー…まあ…なんか…」
酒飲んだ後みてーだな、と言いながら、さっきまでスティーブンが座っていた場所に座ったザップが言ったので、レオは首を傾げる。「?」俺大して酒飲まないし、そもそも飲んだことあったっけ?そう思っていたレオを他所に、だからとチェインが口を利いた。
「疲れてんだよ。…ん?てゆかアンタ何しにきたの?」
そういえば、と思い出したように言ったチェインにそーいえば、とスティーブンもコーヒーを飲みながら言った。「どーしたんだ。もう今日は上がったところだろ」「あーそーだそーだ」そーだよ、と何度も同じことをザップが繰り返したのでチェインもスティーブンも不思議そうな顔になった。ちなみにレオはコーヒー苦いなあ、とぼーっとしながらそう思っていた。チェインが入れてきてくれたコーヒーは美味しかったが、ブラックだったのだ。
「ほれ陰毛頭。おめーにこの大先輩がお恵みを運んできてやったんだよ」
そう言いながら、ザップが持っていた紙袋をぐいとレオに押し付けた。「わっ。………えー…あのーザップさん。僕はゴミ箱じゃないです」そう言ったレオを見て、ザップはうお、となぜか怒らずにそう言った。基本的にこんなことを言われたらザップは怒るはずなので、レオは不思議に思った。怒ると分かっていて言う自分も自分だとは思いはしたものの、ザップの様子がちょっと違うことに驚いたのだ。レオの顔にそれは出ていなかったけれど。
「……やべえマジだ。疲れてんなコイツ」
そう引き攣った顔で言ったザップに、チェインは呆れた様子で言った。「今のレオの答えはフツーだったと思うけど。レオはゴミ箱じゃないんだからちゃんと捨てなよ」「アホかお前。なんでわざわざ俺がそんな遠まわしに嫌がらせしなきゃなんねーんだよ」「確かにお前はそーいう陰険な嫌がらせはしなさそーだ。もーちょっと分かり易くするよな」「そーそー、……、……ってスターフェイズさん!」ノリツッコミさせないでくださいよ、と顔を顰めて言ったザップに、そこなのかよとスティーブンは苦笑した。
「おいいーからソレ開けろよ。そんで今日はシャワー浴びてもー寝ちまえって」
そう言ったザップを変な顔で見つつ、はあいとレオは返事をして紙袋をがさがさと音を立てて開けた。返事をした割に、言われたことは大して頭に入っていない。
「……あれ?ハンバーガーだ」
ゴミじゃない、と性懲りもなくそう言ったレオの頭がぱしんと一発叩かれた。二度目ともなると先輩もイラっとしたらしい。揺れる視界を軽く抑えつつ、レオは小さな紙袋の中に入っていたハンバーガーを取り出した。
「………、……あ、これダイアンズ・ダイナーの……、………あれ?」
なんで店で食わなかったんですか、と言いながらそれを袋に戻したので、おい、とザップはまた顔を引き攣らせた。「流石にここまでくるとこえーよ…レオてめーのだよそれは。さっさと食っちまえよ」ザップにそう言われたが、レオはその言葉の意味がよくわからなかった。俺の?いや違うよ。だってザップさんがこれ持ってきたんだし、てゆかそもそもこの人が俺にものをくれるわけが――――そうぼーっとしながらレオが考えているのを察したのか、ソファの横に佇んでいるスティーブンがザップ、と先輩の名前を呼んだ。
「たぶん今頭働いてないから、はっきり言わないとわからないぞ」
レオを指し示しながら言ったということは、おそらく自分に対してなのだろう、とレオは察して顔を上げる。「?」ザップは複雑そうな顔をしていたものの、わかりましたと嫌そうに言った。「?なにが」「今のは多分レオに対して言った訳じゃないと思うよ」そう肩を竦めながらチェインがぽつりと言ったので、そーだねとスティーブンも苦笑して頷いた。
「…あー…えーっとな。それは俺がわざわざビビアンちゃんとこでおめーに買ってきてやった夕飯だ。今日バイトだっつってたから」
どーせ食わねえつもりだろうと思ってよ、と言いながら先輩は気まずそうな顔で目を逸らしてしまった。「………はあ」そう言いながら紙袋に目を戻す。なんの変哲もない紙袋である。
「…伝わってないみたいだな」
「…伝わってないみたいだけど」
スティーブンとチェインがぽつりとそう言ったあと、お互いに顔を見合わせて目配せしあった。レオは勿論それに気が付かなかったが、ザップは目敏くそれに気が付いたらしい。なんだよ、とチェインの方に向かって言った。
「…じゃ、私もうそろそろ上がるんで」
「僕ももーちょっとクラウスと話することがあるから」
そう同時に二人は言って立ち上がったので、レオは顔を上げた。ソニックも同時に顔を上げると、ぴょんとチェインの方に跳んでいく。肩に止まったあと眼をぎゅっと瞑ったので、どうやら礼を言っているらしい。「……。」またあげるね、とフリスクを翳して言ったチェインに、しかしソニックはちょっと嫌そうな顔をしてぴょんと跳んで行ってしまった。「あー」そう言ったチェインに、レオはチェインさん、と声をかける。
「もうすぐ九時ですもんね。お疲れ様でした」
また明日、と頭を下げたレオに手を振ったチェインは、それじゃと恐らくその場にいる全員に行ってぴょんと窓から外に出て行った。「お疲れ。気を付けてな」そうスティーブンはチェインに言ったあと、それじゃあ少年、と厳かな様子でくるりとこちらを振り返る。なぜかレオには神託を下す預言者に見えた。
「それを食べたらちゃんとシャワーを浴びてすぐに寝なさい。あともうちょっとそいつの話を真面目に聞いてやってくれ」
「?」
前半はいいとして、後半はよく意味が分からなかった。さっきから聞いているつもりだったけれど。そういう顔をしたレオに、スティーブンは苦笑して手をあげた。「…じゃあな少年。ザップ。お疲れ」ザップも泊まるなら仮眠室使っていいよ、と言ってスティーブンは執務室の方に歩いて行った。ドアが開く音がする。「…スティーブン」「わっすまんクラウス。どうしたんだ」「…レオは…」「ああ大丈夫だ。ザップが来たから」そう言っている上司達の声がレオの耳には入ってきたが、やっぱり余り頭には入ってこなかった。どうもぼーっとしている。
「…………つーかあの人も旦那もまだ仕事してんのか…」
変わってんな、とザップは言ってソファに寄りかかると伸びをした。「ほれおめーもさっさと食えよ。そんで寝ろ寝ろ」俺もねみーわ、と言ってザップは小さく欠伸をした。時刻からすればまだ早い時間帯だったが、この男の一日のスケジュールは非常に雑だったから、いつだって起きていられるしいつだって眠っていられるようなものかもしれない。レオはそう思った。
「…………。」
言われるがまま大人しくハンバーガーを手に取って齧る。いつも食べているダイアンズ・ダイナーの味がした。「………、…あのー」そう言ってもぐもぐとハンバーガーを齧りながら、隣にいるザップに話しかけた。
「なんだ」
「なんで買ってきてくれたんですか?これ」
「あ?」
そこまでは理解したのか、と言われてレオははあ、と曖昧に答える。コーヒーを口にしたあと、カップをテーブルに置こうとしたがザップに奪われた。「あ」「…あーの女俺にはコーヒー入れて来ねえでやんの」「そりゃ入れてこようとした時ザップさんがいなかったから」当然でしょう、と言ったレオに、どーだかなとザップは肩を竦めてコーヒーを一口飲んだ。すぐに顔を顰める。
「…まじー。あいつ入れるのお前より下手だな」
「色んな意味で俺もチェインさんも怒りますよ」
そう言ってポテトを齧った。「…………、……。」そこでやっと頭が覚醒してきたので、レオは顔を上げる。隣にいるザップは不貞腐れたような、拗ねたような顔でソファに寄りかかっていた。自分と同じでコーヒーを苦いとでも思っているのかもしれない、とレオは思うと、そのまま先輩の手にあるカップを奪い返す。
「……………。」
無言でザップがこっちを見てきたので、レオは少し首を傾げて口を開けた。「……元気ですよ」そう言うと、ザップは怒ったような顔になるとそっぽを向いてしまった。「……別に怒ってねえよ。俺は」「怒ってるじゃないですか」その返しが、と苦笑したあとに膝の上に乗っている紙袋を見つめる。はたから見れば会話として成立していないだろう。でも自分とザップの間では何となく意図は伝わり合っているらしい。今更それに気が付いて少しだけおかしくなった。別に他人に分かってほしいわけじゃないのに。
「…飯どーも。俺のXステーションは一生戻ってこないけど」
「いー加減しつけえぞお前。てゆか俺のせいじゃねえだろあれは」
しゃーねえじゃん仕事なんだから、と言われたがレオはそーですかね、と言いながらポテトを齧った。「ザップさんが何で俺の家に特使の首を投げたのかさっぱりですわ。大体俺全休だったし」「おめーの家が丁度近かったんだよ」「そんで俺の家とXステーションがぶっ壊れたんですよ」壊れたという表現じゃちょっと足りないとはレオも思ったが、ザップも思ったらしい。少し間が空いた後、それは悪かったよとごにょごにょとザップは決まり悪そうに言った。
「……別に謝ってほしいわけじゃないんですけど」
「ああ?んじゃなんだよ。さっきから分かり難いんだよお前」
「そこで怒るのかよ」
もう、とレオは言ったあとにハンバーガーを齧った。「…ザップさんの服もちょっと置いてあったじゃないですか」「……あ〜〜…そーだっけ…」「よく寝る時使ってたやつあったでしょ。あと歯ブラシとかマグカップとか」「それはおめーが勝手に買っておいただけだろ」そう言ってザップはふんと鼻を鳴らした。
「………そーですけど」
そう言って黙ったからか少し間が空いた。「………次の家決まったのか」「いーえ全然」決まってないです、と呟いたレオの前のテーブルの上に、書類が置いてあるのにザップは気が付いたらしい。「…候補か」「はあ。今日ちょっと回ってきたんで」不動産屋、と言ったレオにふうんと相槌を打って、ザップも書類を手に取った。
「…あー、ここはやめとけよ。バスタブねえじゃん」
「えー。でもない方がやっぱ家賃が…」
「それにここ角じゃねえじゃん。角にしとけって」
「角部屋?それでバスタブありきの部屋だと結構かかるし…」
そう言いながら先輩の手元を覗き込んだ。ザップは別の候補地もぱらぱらと捲って確認している。「…あ、なんだ。ここがいーじゃねえか。ここにしろよ」そう言って差し出された書類を見て、ああとレオは曖昧な相槌を打った。「あー、そこですね。そーなんですよね。近いし」部屋綺麗だったし壁紙も前と似てたんですよね、と言ってレオは肩を竦める。たまたま不動産屋と近かったので、ついでに内見をしてきたのだ。いい部屋だと単純にそう思った。
「?んじゃここでいーじゃねえか。何迷ってんだよ」
そう言ってザップは首を傾げると、レオのために買ってきた筈のポテトを一本抓んで口に入れた。「…あー、…えーっと……、…部屋が前のとこよりちょっとだけなんですけど、その…」「?なんだよ。幽霊でも出そーってか」「ゆうれい?」そう言って首を傾げると、何でもねえよとザップは手を振った。後々知ったが、それは日本でいうところのゴーストというやつだったらしい。先輩はやけに東洋に詳しい。
「……部屋は広いんですよ。ただベッドがちょっと、…その、…前のところより小さいというか」
「?それがどーした」
一人部屋なんだから充分だろ、と言われてまあ、とレオは再び曖昧なことを言いながらハンバーガーを齧った。「……そーなんですけど」そう言った後にまた変に間が空く。「………………。」そして最初に口を利いたのはザップだった。
「…………別におめーと俺二人くらいだったら眠れるだろ。無理矢理」
「げほ、」
丁度ハンバーガーを齧っていたので、それを聞いてむせてしまった。ごほごほと咳をしているレオをちらりとザップは見たあと、呆れた様子で息を吐いた。溜息ではなかった。「……………。」黙って背中を摩られたが、レオはすいませんとも有難うございますとも言えず、ただ咽るだけだった。
それから少しだけ間が空いた。
「………あとあれだ。俺の服はともかく…あー……コップとか、歯ブラシとか…その辺はおめーがまた揃えとけよ。使ってやるから」
そう言った先輩は決まり悪そうだったが、レオも大概決まり悪く思った。確かに頻繁に来る先輩のためにそういったものを細々と揃えたのはレオだったが、それを指摘されたのは今日が初めてなのだ。
「……んじゃザップさん」
だからレオはそれをスルーすることにした。まあいいや、と自分の中で色々なことを放棄したとも言える。
「なんだよ」
そしてやっと、という具合にザップが煙草を取り出した。「……不動産屋一緒に来て下さいよ。値切るの得意でしょ」「はあ?冗談じゃねえっつの」そんくれー自分でやれよ、と言いながらレオのことを小突いてきた先輩は結局翌日一緒に不動産屋に来てくれたけど。
結局値切ったのはレオで、ザップはその間ずっと不動産屋で受け付けの女の子を口説いていた。「ザップさん!」契約終わったから、と言いながら先輩を引き摺るように歩き出したレオに愛想笑いを向けた不動産屋を他所に、ザップは執拗く女の子と連絡先を交換しようと頑張っていた。


そして新居は新居で中々に心地がいい。
「……まあ」
二人で寝れないこともないか、と言いながらベッドに腰掛けたレオを不思議そうな顔でソニックが見つめてきた。