お湯を入れてすぐ3分
2020/07/27
カップラーメンを食べたことがないという。
「嘘でしょ?」
唖然としてそう言ったレオナルド・ウォッチに、「何で嘘を吐くんだよ」と先輩は変な顔をした。珍しく、困惑しているらしい。
「だって、カップラーメンですよ。この間ラーメン一緒に食ったじゃないすか」
「そりゃフツーのラーメンだろ?カップの方はねえよ」
そう言って、先輩は―――ザップ・レンフロはごろんとベッドに転がった。レオは唖然としたまま寝転がった男を見つめたが、思い出した。自分は今カップラーメンを作っているところだ。慌てて、湯を入れた器を持って部屋の隅にある椅子に戻る。ザップは、レオのベッドの上で眠そうな顔で欠伸をした。
カップ麺を小さなデスクの上に置いて、フォークをその上に置く。そのまま、窓際に歩いて窓を開けた。
「つかお前今から食うの?」
「だって俺、朝から何も食ってないんですよ」
眉を下げてそう言うと、「ふーん」と物凄くどうでもよさそうな返事をされる。聞いたくせに、とここで詰る程レオも愚かではなかったので、それには反応せず、椅子に戻る。湯を入れてから、まだ1分も経っていなかった。
いつものようにふらりとやってきた先輩は、レオの許諾を得ることなく、今日もレオの部屋に泊まることにしたらしい。なんだかもう、俺の家って、簡易宿泊所みたいになってる気がする、とレオは思う。大抵、ザップが来るのは深夜だったし、酔っていることも多かった。ザップ曰く、家がないということらしいので、泊まる場所も転々としているらしい。この街でよくもまあ、と言いたくなるが、裏を返せばそれでも暮らしているのだから、この男も凄まじい生命力だ。
「美味いのに」
「フツーのラーメンよりもか?」
唐突に言った「美味しいのに」という言葉の意図するところを、ザップは把握したらしい。勘がいいということもあるだろうが、レオとの会話に慣れているせいもあるだろう。先輩は半ば笑いながら、雑誌をぱらぱらと捲っている。
「うーん。そーいうんじゃないんすよ。ザップさんだって、サンドイッチとハンバーガーどっちが美味いかって言われても、困るでしょ」
「ハンバーガーだろ」
「俺が言いたいのはそういうことじゃないんですけど。てゆか、サンドイッチも美味いっしょ」
種類が違うものを比べたりはできない、と言いたかったのだが、これはどうやらうまく伝わっていない。てゆか、ザップさんはサンドイッチよりハンバーガーなんだな、と今更のようにレオはそう思った。
「てゆか、なんでカップラーメン食ったことないんですか?便利じゃないですか」
「なんでって……知らんわ。お前だってクーリビヤック食ったことねえだろ」
「くー………え?なんすかソレ」
聞いたことすらない料理の名前を出されて、戸惑った。つか、料理の名前とか覚える人だったのか。そう思ったレオのことを見ながら、「どーでもいーけどよ」とザップは言った。顔が呆れている。
「それいーのか。時間で食うんだろ」
「あ」
はっとする。慌ててスマートフォンの時間表示を見ると、湯を入れてから3分と半が経過していた。さっきまで、1分も経っていなかったというのに。慌ててフォークを退けて、蓋を開ける。ぶわりと湯気が溢れ出したせいで、「あち」と声を上げた。
ずるずるとラーメンを啜っているレオの横で、ザップはもう一回欠伸をした。
「俺寝るわ。灯り消すぞ」
「えっ。いやいやいやちょっと待って。俺まだ飯食ってるんですけど」
そう言ってフォークを置いたレオの眼前で、ザップは「えー」と子供っぽく言ってベッドの上に起き上がる。その拍子に髪がふわりと跳ねたが、すぐに元の形に戻る。憎らしい程のストレートヘアーに、舌を巻くどころかむっとしてしまった。世界は不公平だ。
「えーじゃないですよ。今日だっていきなりザップさんが来たのに、俺ちゃんと泊めてあげてるでしょ。ちょっとは謙虚な態度取ってくださいよ」
「お前の家に泊まってやってんのに、何で俺が謙虚な態度取らなきゃなんねーんだよ。ヤだよ」
「前提がおかしいっすよ」
顔を顰めてそう言うと、フォークで四角い肉の塊を刺す。「あ?なんだそれ」ザップが訝しそうにそう言って、フォークの先を指さした。
「え?肉ですけど」
「サラミみてーだな」
「ああ、そうですね。食感はそんな感じかも」
「うめーの?」
首を捻ってそう聞かれて「まあ」とレオは曖昧な返事をする。「そんな毎日食いたいって程じゃないけど。美味いっすよ。楽だし」肉の感想ではなく、カップラーメンの感想を言ってしまった。
実際、レオもそんなにカップラーメンは食べない。実家にいた時よりは食べているが、どっちかと言うとサンドイッチやハンバーガーなど、出来合いのものを買ってしまうことの方が多かった。そっちの方が好きだからだ。
「楽ねえ。めんどくさくね?湯沸かさねーといけねーじゃん」
「湯を入れたらすぐできるんだし、そこは妥協というか努力というか。そんくらいは頑張ってほしいってことじゃないですか」
笑ってそう言うと、「だりー」と先輩からは不満の声がした。そのまま、もう一度ぱたんとレオのベッドに寝転がる。本当に眠いみたいだな、とレオは思って急いでカップラーメンを食べようと―――して、気が付いた。
いや待て。なんで俺の家に勝手に泊まりに来た人に、家主の俺が気を使わないといけないんだ?
「……………。」
無言でザップの方を見ると、先輩は再び雑誌をぱらぱらと捲っていた。一応、待ってくれるつもりなのかもしれない。いや待てよ、この『くれる』という言い方からしてもうおかしい。てゆか俺まだシャワーも浴びてないし。この後歯磨きもしなくちゃいけないのに。
そう思ったのに、どうしてか急いでカップラーメンを食べ終わってしまった。
「……ごちそうさまでした」
そう言った自分の声が、不満に歪んでいる。なんかもうちょっとこう、味わって食いたい。食事は一日三回しかできない―――わけじゃないけど、基本的には一日三回だし。今日なんて俺これが初めてだし。そう思った。
「あ?食い終わったんか」
「………だってラーメンは早く食わないと伸びるじゃないですか」
「?そーだけどよ。………何怒ってんだ」
「怒ってませんよ」
ザップさんには、と脳内で付け加えて、肩を落としながら空になったカップ麺の容器とフォークを片付けに歩く。「?」不思議そうなザップの視線を後ろに感じたが、突っ込まれなかったことにほっとした。
まさか、早く寝たがっているらしいザップのために、さっさと完食した自分にムカついたのだ、とは言えない。なんか理由も長いし。
ザップの考えに押されているというよりは、甘いのかもしれない。ザップさんに押されたら一応押し返すつもりではいるんだけど、と考えながら、フォークを適当に洗って水を切った。
シャワーを浴びて歯磨きをして戻ると、ザップは眠っていた。雑誌を胸に置いたまますやすやと寝息を立てている姿を見て、「寝てるし」と呟く。窓を閉めようと、窓際へ向かった。
「寝てねえよ」
「うお」
びくりとして窓の枠から手を離した。夜風が気持ちよかったので、もうちょい開けててもいいかな、と考えているところだった。外からは昼間よりは静かとはいえ、喧騒が聞こえる。
ザップは当然、ベッドの上に寝転がったままだった。仰向けでレオの方を見ているので、ブリッジに失敗した人みたいだった。前髪が逆立つような形になっているせいで、額が見える。なんか既視感があるぞ、と思ったが、いつ、何に対しての既視感なのかは分からなかった。
「び、びっくりした。寝てたじゃないですか」
「寝たふりだ」
「なんでそんなことを?」
怪訝そうに言ったレオに「さあな」とザップはどうでもよさそうに言った。欠伸をする。「…………。」つまり何も考えていないのだろう。眠いせいなのか、いつもよりも会話が支離滅裂だ。
窓枠に寄りかかって、髪をタオルで拭った。「あー……疲れたぁ」伸びをしたレオに「んじゃ早よ寝ろよ」とザップはまた欠伸をした。なんだか今日は、矢鱈と眠そうだ。とはいえ、もう深夜も一時を回っている。
「髪乾かしたら寝ます。……あ」
はっと呟いたレオに「なんだよ」とザップが言った。
「牛乳なかったんだ。朝飯がありません」
「牛乳は元々朝飯にはならんだろ」
普通のツッコミがきた。「いやまあ、そうなんですけど。コーヒーが」眉を下げてそう言うと、「あー」とザップは鼻で笑った。
「お前コーヒーに牛乳入れるよな」
「ザップさんだってブラック飲まないじゃないですか」
そう指摘したレオに「俺はいいんだよ」と訳の分からない返しをされてしまった。自分のことを棚に上げて、という表現にこれほどぴったりなこともあるまい。
「てゆかいーからお前さっさと髪を乾かせって。寝れねえだろうが」
「ザップさんどこでも寝れるじゃないすか。さっさと寝ればいいでしょ」
「人が折角泊まりに来てやったのにそれかよ」
「いやだから、前提がおかしいんすよ。ザップさんだって、別に俺に会いたくて泊まりに来たわけじゃないでしょうに」
そう言ってもう一回、伸びをする。なぜかそこでザップからの反応が止まったから、不思議に思ってザップを振り返る。
「?」
その拍子に、タオルが落ちそうになったので、慌てて手で押さえた。
ザップはとっくにさっきまでのブリッジもどぎをやめていたので、レオの方からはつむじしか見えなかった。ザップは天井しか見えないだろう。
「ザップさん?」
普通に考えれば無視された、とかシカトされた、というところか。確かにこの先輩はレオのことをそこそこ無視するし、シカトするし、人の話を聞いているのに聞いていないふりはしょっちゅうだ。だけどこういう時に―――つまりそれは二人で普通に会話をしている時という意味だったが―――あまり、そういうことをしない。大抵レオが無視されるのは、仕事中が多い。『ちょっと待ってくれ』とか『聞いてましたか?』とか『それはおかしいです』とか、大抵、レオからすれば真っ当な指摘だ。真っ当なものは、無視されてしまうのがこの街の理らしい。
「……………あのー」
もしかして寝たのでは、とベッドにのこのこと歩み寄りながら、そう思った。今の今まで話していたのに、唐突に眠るなんてことは普通ない。ないけど、この男ならやりかねない。付き合いはきっとそんなに長くないが、レオでもその程度はわかった。
「あのう」
レオの影がザップにかかった、その瞬間だった。ザップが勢いよく、こっちを向いた。
凶悪そうに笑ったその顔を見て、一瞬で意図を察する。やられた、と思う間もなかった。
「……うりゃっ」
げっと言う暇もなかった。そのまま思いきり腕を引っ張られて、ごろごろとベッドに転がされる。「いって!」悲鳴を上げたレオのTシャツの中に、びゅん、と何かが滑り込んできた。あ、これザップさんの血なんじゃね?とレオが気が付いた時には、もう遅かった。こしょこしょと身体が擽られる。
「…って、あ、ちょ、わ、やめてやめてやめて!くすぐ…っあははははは!」
「わはははは。踊れ喚け苦しめ」
「ちょ、ま、マジでやめ…っくすぐったい!ザップさん!や、やめて、ちょ、」
やだって、と言いながら起き上がっていたザップにぶん、と腕を振り上げる。ザップは当然、レオの手を爆笑しながら軽く受け止めた。
「や、あ、あの…っ?ザップさんまじで、俺しぬ、しんじゃうって、」
「笑い過ぎて死んだ奴はいねーだろ」
「い、いる、ぜった、あ、くすぐった…っあはははは!やめてくださいってば!だ、…っだいたい必殺技を、あ、こら!くすぐったいって!やめて!」
身を捩ろうにもザップに半端に腕を掴まれているせいで、じたばたするくらいしかできなかった。
「う〜〜〜、あ〜〜〜も、もー、あ、やめ……っごめんなさいごめんなさい!謝ります!」
「お前ラーメンより弱いな」
そう言ったが否や、びゅん、とシャツの下から血が抜けていく。ほっとしたと同時に、全身の力が抜けた。
「………、…し、………死ぬ………うう〜〜〜」
呻いてそのままザップの方にぐったりと倒れ込んだせいだろう。「うわ」とザップは声を上げた―――が、そのままレオは受け止められた。息が荒かったせいか、死ぬと思われたのかもしれない。
「おうなんだ。死ぬか?」
「し……、死ぬ……、……何すんすかもー……」
意味ないことしないでくださいよ、と言おうとのろのろと顔を上げる。ザップがレオを、丁度抱き留めるようにして受け止めているせいだったから、顔が近かった。ちょっとびっくりする。やはり近くで見ると、と冷静なレオだったら思っただろう。顔はきれいだ。
幸いなことに、この時のレオは冷静ではなかった。身体が悲鳴を上げている。
「………ラーメンより弱いってなんですか?」
言いたいことはたくさんあったが、別に言いたいことではないそれを言ってしまった。ザップは流石に予想外だったらしい。「は?」きょとんとした様子で、そう言われた。
「今、言ったでしょ。ラーメンより弱いって」
「3分ももたねーのかっつー意味だよ」
「もつわけないでしょーが。そんなんされたら呼吸困難で死んじゃいますよ」
顔を顰めてそう言ったレオに、ザップはまたしても爆笑した。「ザップさん」非難がましくそう言ったレオを、そこでザップはぽいと横に放る。
「…………。」
なんんだよもう、と思ったが、起き上がる気力もなかったのでそのままレオは足を折り曲げた状態で、うつぶせに転がる。ザップは窓の方を見ながら、煙草を取り出していた。
「……今度ラーメン食いましょうか」
「あ?」
なんだいきなり、という顔でザップがこっちを振り返る。煙草を手にしたままだ。
「だからラーメン。カップ麺」
食ったことないんでしょ、と言いながらのろのろと起き上がる。「ねーけどよ。なんで」不思議そうにそう聞かれて、「だから、ザップさんは食ったことないって言うから」とレオは答える。同じことを2回言ってしまった。
「塩とか味噌とかカレーとかいろいろ味もありますから」
「………ゆーてもよ」
「はい?」
ザップはそこで、不貞腐れたような顔をする。そこでどうしてそういう顔をするのか、レオにはよく分からなかった。
かちん、と火を点ける音がした。
「……お前ん家で食うしかねーぞ。俺家ねーし」
「はあ。それはそうなんじゃないですか」
「……………。」
レオは当たり前のことを言っただけだったのだが、なぜかザップは複雑そうな顔をした。具体的に言うと『なんだそれは』とか『お前が言うのか』とか不満げな顔に近い。それを見て、レオが不思議に思った。
「なんすか。食いたくないんですか?」
「………つーより、お前が」
「俺?」
なにが?と言いながらレオは髪を乾かそうと、ベッドの上でくしゃくしゃになっていたタオルを拾う。肩にそれをかけて、首を傾げた。
「俺が何か?」
そう言ったレオが心底不思議そうだったからだろう。ザップは今度こそ不貞腐れたような顔をした。けれどレオにはその理由が分からない。
「………なんでもねえ」
「ええ?」
いつも何事もはっきり言う男が、そんなことを言うのは珍しい。
「なんすか一体」
「なんでもねえよ。いーからちゃっちゃと髪乾かせって」
「?」
唐突に機嫌が悪くなった先輩を不思議に思いはしたが、言われた通りでもある。さっさと髪を乾かさないと、風邪をひいてしまうだろう。
素直に髪を乾かしている間、ザップは窓際に移動して煙草を喫っていた。やっぱりどことなく不満そうな顔をしていて、ちょっと気にはなる。でも多分、さっきみたいにレオが聞いたところで、教えてはくれないだろう。一回聞いて答えないのなら、何度聞いても答えてくれない。
「……眠い……てゆか、疲れた………」
そう呟いてドライヤーを片付けて、ベッドに戻る。ザップはレオを見るとぽいと煙草を外に捨てた。
「あっ。ちょっとダメっすよ。ポイ捨て」
そう言って慌てて窓際に駆け寄ったが、その途端、ザップにがし、と身体を押さえられる。「…喚くなよ」その低い声に、「え、」と呟いて顔を上げる。ザップは窓の外を睨んでいた。
何ですか、と言う前に窓際を勢いよく何かが駆け上がった。「わ、」物凄い風の量に思わず目を瞑る。窓枠ががたがたと音を立て、足元がふらついた。転ばなかったのは、ザップが押さえてくれていたからだろう。
ざあ、という音と一緒に何かが空の方に消えて行った。
「………な、なに……?」
今の、と呟いたレオに「竜じゃねーか。たまに飛んでるし」とザップは淡々と言った。りゅ、竜?確かにたまに飛んでるけど、今までこんな風に会ったことはなかった。なんで今、と思ったが考えるだけ無駄だとすぐに悟った。世界は何でも起きるし、この街は異常が日常だからだ。
「……ほら寝るぞ」
ぼーっとしていたレオをひょいと抱えると、ザップがそう言った。「わっ!?」身体が浮く感覚に悲鳴を上げてしまう。運ばれる程の距離もなかったが、運ばれている間に察した。
多分、煙草はあの竜の口の中だ。
おやすみなさい、と言ったレオに「おう」とザップが返事をする。欠伸をしたレオの横で、ザップも欠伸をした。
「………あ、さっき。どうもありがとうございました」
顔がなくなるところでした、と言ったレオに「顔だけならいーけどな」とザップはひねくれた返事をした。礼を言うと調子に乗るか、「当然だろ」と太々しく言うかがこの男の常だったが、たまにこうやって変な回答がくる。こういう時は、十中八九照れているのだ、とレオは学んでいた。素直じゃない人だと思う。ただ、多分それは自分にも言えることだったから、指摘はしなかった。
「…あの竜は人間も食うんすかね。てゆか主食はなんなんでしょう」
唐突にそう言ったレオに、ザップは少し面食らったようだ。ちょっとだけ間を空けてから「知らん」といういたくザップらしい回答がくる。まあそうだよな、とレオも思った。
なぜこんな話題を振ったかと言うと、レオ自身も先輩の態度によって少し照れたからだ。照れられたからこちらも照れる、というのは、なんとも本末転倒感があった。
「…ゆーてもな。ラーメンは食わなさそーだよな」
「でもこないだラーメン屋にウナギが並んでましたよ」
「ありゃウナギじゃなくてウナギっぽい異界人だろ。訴えられるぞ」
「ザップさんもウナギだって言ってたじゃないですか」
頬を膨らませたのは、暗くて見えないだろう、と踏んだからだ。明るい場所でそれをすると、子供だのガキだのと散々揶揄われるとレオは学んでいる。正直に言えば、その指摘は自分自身でもその通りだと思っていたから、つまり図星を突かれるようでいて嫌だったのだ。言ったことはないが。
しかし、頬にむに、と柔らかい感覚がきて「わっ」と小さく声を上げた。どうやら指先で軽く頬を突かれたらしい、と気が付く。
「…………。」
びっくりして頬を押さえたレオの表情は、おそらく驚いた、と誰が見ても分かるそれだった筈だ。
「……はは」
ガキ、と笑ったザップの声がする。なんで俺が膨れてることがわかったんだ、とレオは思ったものの、聞くのはやめた。
なぜか、心臓がドキドキと音を立てたからだ。なんだこれ、と思ったが、ザップの声にはっと我に返る。
「寝る」
「あ、は、はい。おやすみなさい」
慌ててそう返事をしたレオの横から、すやすやという寝息が聞こえてきて舌を巻いた。早い。眠いと言っていたは言っていたが、それにしても早い。
「………ザップさんはラーメンより早い」
そうとだけ呟いて、レオも眼を瞑った。いまだに高鳴る心臓を、不思議に思いながら。
そして翌日、思っていたより早くカップ麺を食べる機会はやってきた。ただし場所はレオの家ではなくライブラ事務所だったが。外を覆いつくす嵐を見ながら、溜息を吐いてレオはカップラーメンにお湯を入れた。
「ザップさん。貸してください。お湯を入れます」
「マジで美味いんだろうな。不味かったら訴えるぞ」
「俺じゃなくて、カップ麺メーカーを訴えてくださいよ」
そう言いながら、ザップの分のカップ麺にお湯を注ぐ。湯気の向こう側で子供みたいな顔をしている先輩を見ながら、レオはちょっと笑ってしまった。
カップ麺ができるまで、あと3分。
終
クーリビヤックは食戟のソ…で読みました。すいません。